絵本・児童文学研究レポート

絵本・児童文学についての自由研究ブログです

好奇心でいっぱい『ひとまねこざる』

『ひとまねこざる』

 H.A.レイ 文・絵 光吉夏弥 訳 岩波書店 (1954)

 4~5歳頃から

 

【あらすじ】

さるのじょーじは、動物園にすんでいます。じょーじはとても知りたがりや。動物園の外がどんなになっているか知りたくて、係のおじさんがうっかりしているすきに、カギをぬすんで、外に出てしまいます。動物園の門を出て、これからどうすればいいのかな?もしかしたら、遠いアフリカから自分をつれてきた、仲良しのきいろいぼうしのおじさんに会えるかもしれない。じょーじは町に出て探検に出ます。

 

好奇心でいっぱい『ひとまねこざる』

 

おさるのじょーじは、好奇心でいっぱい。

 

外の世界はどうなっているのかな?

このふたの中身は?

ここでは、なにをしているのかな?

 

たくさんの疑問が出てきます。

 

好奇心の始まりは、小さな「なぜ?」「どうして?」から。

 

そして、なんでもやってみよう!という行動力。

 

時には、失敗してしまうこともあるけれど。

 

失敗は成功のもと。

ピンチはチャンス。

 

じょーじは、騒ぎを起こしてしまったおかげで、アフリカから自分を連れてきた「仲良しのきいろいぼうしのおじさん」に再会することができました。

 

そして、なんと映画出演!

大活躍です。

 

好奇心は、ステキな出会いや経験、チャンスを与えてくれます。

 

おさるのじょーじのようにのびのびと、好奇心いっぱいでいたい。

何でも楽しんでやってみよう!

元気になれる作品です。

1ぴき1ぴき丁寧に『おたまじゃくしの101ちゃん』 

『おたまじゃくしの101ちゃん』

 かこさとし 作・絵 偕成社 (1973)

 4~5歳頃から

 

【あらすじ】

いちべえぬまのかえるのうちに、かわいい赤ちゃんがどっさり。なんと101ぴきも生まれました。お母さんは、毎日101ぴきの子どもたちのお世話で大変です。さあ、今日は遠足に行きましょう。みんなちゃんとついてくるんですよ。あら、101ちゃんはどこ?お母さんは、みんなにじっとしているように言って、101ちゃんを探しに行きます。

 

 1ぴき1ぴき丁寧に『おたまじゃくしの101ちゃん』 

 

この絵本には、歌がたくさん書かれています。

 

きっと、101ぴきを見るのは大変。

 

その1ぴき1ぴきの子どもたちを、お母さんは優しい歌で引き連れていたのでしょう。

 

そして歌は、子どもたちに引き継がれます。

このお話の中では、101ちゃんを探そうとして、たがめやザリガニに見つかってしまったお母さんを、子どもたちが、歌で一つになり、スクラムを組んで助けに行きます。

 

お母さんを必死に助けようとする子どもたちが描かれています。

 

101ぴき。

 

かこさとしさんは、子どもたちのために、101ぴき、1ぴき1ぴきをきちんと描いてくれました。

 

そして、子どもたちは、きっと、101ぴきいるかどうか数えるのだろうなと思います。

 

この101ぴきの話で、以前本当にちゃんと数えた子どもが100ぴきしかいないと、かこさんにお手紙を書いたそうです。

 

そのお手紙をもらったかこさんは、その子の指摘を受けて、また新しく書き直したそうです。

 

かこさんの優しさは、こんなところにも表れています。

 

一人一人の子どもたちのために描いた、101ぴきのかわいいおたまじゃくしのお話です。

自然の暮らしの中で『14ひきのあさごはん』

『14ひきのあさごはん』

 いわむらかずお 作・絵 童心社 (1983)

 3~4歳頃から

 

【あらすじ】

おとうさん おかあさん おじいさん おばあさん そしてきょうだい10ぴき。ぼくらは みんなで14ひき かぞく。あさだよ。おはよう。かおをあらったら、あさごはんのしたく。のいちごつみ。だいどころでは、どんぐりぱん。みんなそろって、いただきます。

 

自然の暮らしの中で『14ひきのあさごはん』

 

「14ひき」シリーズの一冊、『14ひきのあさごはん』を紹介します。

 

おとうさん、おかあさん、おじいさん、おばあさん、そしてきょうだい10ぴきの14ひき家族のねずみのお話です。

 

このねずみの家族を見ていると、その住んでいる世界へ入ってみたくなります。

 

木のおうち。

一人一人のベッド。ふとん。まくら。

階段。

洋服ダンス。ハンガーに洋服。

 

実際の大きさだと、どのくらいになるのでしょう。

想像するととてもおもしろいです。

 

14ひき家族の日常が、細かく丁寧に描かれています。

 

小さなきょうだいの世話をしている子、一人で身支度をしている子。

一人ひとりがきちんと描かれているのです。

 

読み進めて行くと、「これは、にっくんだ!」と探したくなります。

 

表紙に、これがいっくん、これがくんちゃんと描かれているので、服をたよりにあててみます。

 

そして、一つ一つの場面が、しっかりつながっているのもおもいしろいところです。

 

ろっくんが指に手当をしてもらっている場面があり、どうしてかな?とページをさかのぼっていってみたら、ずっと手を気にしていてます。

どうやらのいちごを摘んでいるときに、とげがささってしまったようなのです。

 

あ、そうだったのか、と何回読んでも発見があります。

こういったしかけが、子どもも大人も楽しいです。

 

そして、美しい自然の中での暮らし。

 

トンボやチョウチョウなどたくさんの生きもの。

きれいな滝。

すずしい音。

ちょっぴりあまくて、ちょっぴり すっぱい のいちご。

 

生物も草花も、豊かに描かれています。

 

この絵本の作者、いわむらかずおさんが開いた「いわむらかずお絵本の丘美術館」が、栃木県馬頭町(言・那珂川町)にあり、私も訪ねたことがあります。

 

自然豊かな素晴らしいところです。

 

いわむらかずおさんは、絵本や自然、子どもをテーマに活動されています。

 

自然の美しさを、絵本の中で子どもたちに伝えてくれています。

 

「14ひき」シリーズは、『14ひきのひっこし』『14ひきのぴくにっく』『14ひきのせんたく』など、たくさんあります。

 

かわいい14ひきの世界、そして自然の美しさを、みなさんもぜひ味わってみてください。

 

 

 

 

 

老人のくれた知恵や優しさ『わすれられないおくりもの』

『わすれられないおくりもの』

 スーザン・バーレイ 作・絵 小川仁央 訳 評論社 (1986)

 5~6歳頃から

 

【あらすじ】

 かしこくて、いつもみんなから頼りにされていた、優しいアナグマ。年をとっていたアナグマは、トンネルの向こうへ旅立ちます。森のみんなは、アナグマの死を悲しみます。冬が終わり春になると、みんなは、互いにアナグマとの思い出を語り合います。アナグマのくれた、わすれられない大切なおくりもののお話。

 

老人のくれた知恵や優しさ『わすれられないおくりもの』

 

『わすれられないおくりもの』では、老人のアナグマが、若いみんなに慕われていた様子が描かれています。

 

そのアナグマの「存在感」

老人というのは「存在」の象徴です。

そこにただいてくれているだけで、安心できる、そんな存在。

 

そして、老人の「包括性」

誰に対しても分け隔てなく接し、自分の知恵や工夫をおしみなく伝えています。

 

老人というのは、「死」の象徴でもあります。

死にとても近い存在です。

 

アナグマは死ぬことをおそれていませんでした。

 

死んで、からだがなくなっても、心は残ることを、知っていたからです。 

 

アナグマは長いトンネルの向こうへ行ってしまいました。

 

みんなの心の中は悲しみでいっぱい。

でも、それだけではありませんでした。

 

時間の経過の中で、みんなはアナグマの死を受け入れ、アナグマとの思い出を語れるようになっていきました。

 

丁寧に教えてくれたこと、ずっと優しくそばにいてくれたこと。

みんな、それぞれにあるアナグマとの思い出。

 

アナグマは、ひとりひとりに、別れたあとでも、たからものとなるような、ちえやくふうを残してくれたのです。みんなはそれで、たがいに助けあうこともできました。

 

アナグマのおくりものは、みんなの心の中にずっと生き続けていきます。

 

 

 

 

機関車のぼうけん『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』

『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』

バージニア・リー・バートン 作 村岡花子 訳 福音館書店 (1961)

4~5歳頃から

 

【あらすじ】

ちゅうちゅうは、真っ黒くてピカピカ光っていて、きれいなかわいい機関車。いつもは、機関士のジムと機関助士のオーリーと客車の車掌アーチボールドと一緒に、お客さんを乗せて、貨車を引いて走ります。しかし、ちゅうちゅうは考えました。重い客車を引くのは大変、私一人ならもっと速く走れる。ジムとオーリーとアーチボールドがコーヒー店で休んでいる隙に、ちゅうちゅうは逃げ出します。ちゅうちゅうの冒険の始まりです。

 

機関車のぼうけん『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』

 

この絵本の作者、バージニア・リー・バートンは、名作『ちいさいおうち』の作者でも有名です。

 

この絵本は、機関車好きの息子のために描かれたと言われています。

 

原作は『CHOO CHOO』です。

まさに、ちゅうちゅうトレインですね。

 

英語では機関車しゅぽしゅぽとよく表されますが、英語では「CHOO CHOO」と表すようです。

 

この『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』は、白黒のタッチで描かれていて、とても

素朴に描かれています。

白黒ですが、とてもあたたかみのあるイラストです。

 

ちゅうちゅうは、いつもの仕事にちょっと嫌気がさして冒険がしたくなりました。

跳ね橋が上がっていても跳びあがって!

なんとも大胆です。

 

どんどん、どんどん町を抜けて、田舎を走って、あたりは暗くなってきて。

石炭も水も燃料切れ。

 

その頃、ジムとオーリーとアーチボールドは必死になって、ちゅうちゅうを探していました。

 

3人はとうとうちゅうちゅうを見つけます。

 

見つかってしまったちゅうちゅう。でも、ちゅうちゅうはうれしかったのです。

 

ちゅうちゅうは、ジムたちが みつけにきてくれたので、

とても よろこんで、ちいさい こえで 「ぷう!」と、

きてきをならしました。

 

 

探してくれたうれしさ。

思い切り走った後の達成感。

冒険はおしまいです。

 

また一回り大きくなったちゅうちゅうは、これからもたくさんの人をいっぱい乗せて、貨車を引いて、ジムとオーリーとアーチボールドと一緒に走り続けるのでしょう。

 

 

 

 

 

声に出して読む絵本『これはのみのぴこ』

『これはのみのぴこ』

 谷川俊太郎 作 和田誠 絵 サンリード (1979)

 4~5歳頃から

 

【あらすじ】

これは のみの ぴこ。これは のみの ぴこの すんでいる ねこの ごえもん。これは のみの ぴこの・・・・どんどんつながっていく、言葉あそび絵本。

 

 

声に出して読むとおもしろい絵本

 

「自己紹介ゲーム」というものがあります。

複数人(10人くらい)いるときに、おもしろいゲームです。

 

これは、ただの自己紹介ではありません。

 

まずは、自己紹介をする順番を決めます。

そして、何か一つお題を決めて(例えば好きなもの)、1番の人から順に自己紹介をします。

 

2番目の人は、前の人の好きなものと名前を言ってから、

「りんごが好きな○○さんの隣にいる読書が好きな□□です」というように、どんどんつなげていきます。

 

5人くらいなら覚えていられるでしょう。10人以上だとだんだん難しくなってきます。

よく聴いてないとわからないので、人の名前をよく覚えられるゲームでもあります。

 

この『これはのみのぴこ』のお話もそんな風にどんどんつながっていくお話です。

 

これは のみの ぴこ

これは のみの ぴこの すんでいる ねこの ごえもん

これは のみの ぴこの すんでいる ねこの ごえもんの しっぽ ふんずけた あきらくん・・・・・・

 

 

というようにです。

 

読んでいくと大変です。

だんだん早口になってきます。

これは、ぜひ声に出して読んでほしい絵本です。

言葉あそびのおもしろさは、きっと口でわかります。

 

さあ、「のみのぴこ」から「のみのぷち」につながるまでどれだけ続くのでしょうか。

 

 

それは読んでからのお楽しみ。

 

 

人はつながっている。

 

きっと気づかないところで、あなたとつながっている人がいるかもしれません。

 

 

 

 

自然の美しさ『よあけ』

『よあけ』

 ユリー・シュルヴィッツ 作・画 瀬田貞二 訳 福音館書店  (1977)

 5~6歳頃から

 

【あらすじ】

 音もなく、静かな夜明け。寒く湿ったみずうみ。月のきらめき。そよかぜによるさざなみ。かえるのとびこむ音。おじいさんと孫は、湖に漕ぎ出す。やがて、山と湖が、緑に染まる。

 

自然の美しさ

 

夜が明ける少し前の静けさ。

 

すっと心が引き締まるような、あの空気が好きです。

 

『よあけ』では、湖を舞台に、夜が明けていく美しさを描いています。

 

月明かりの静けさの中で、眠るおじいさんと孫。

 

その静けさの中で、かえるの飛び込む音や、鳥の鳴き声が気持ちよく響きます。

 

おじいさんが孫を起こす手のぬくもり。

 

焚いた火のあたたかさ。

 

美しい静かな情景の中に、音を感じ、ぬくもりを感じます。

 

そして、山と湖が、みどりになる場面。

 

湖が美しいから、空気が澄んでいるから、太陽の光が山に照らされて、湖に鮮やかに映るのでしょう。

 

この絵本の作者ユリー・シュルヴィッツは、東洋の文芸・美術にも造詣が深く、この

『よあけ』のモチーフは、唐の詩人である柳宗元の詩「漁翁」によっているそうです。

 

漁翁が、山水の風景にとけこみ、自然の一部になっている様子。

船をこぐ音だけが、山々に響き渡っている情景。

 

清らかな自然とともにある日常の豊かさ。

 

漢詩の心と絵本が織りなす、自然の美しさです。