『あのころはフリードリヒがいた』
ハンス・ペーター・リヒター 作 上田真而子 訳 岩淵慶造 挿絵
岩波少年文庫 (1977)
中学・高校・一般
【あらすじ】
「ぼく」のアパートの一階上に、フリードリヒ一家が住んでいた。「ぼく」にとってフリードリヒは大切な親友だ。第二次世界大戦時、ヒトラー政権下にあったドイツ。ユダヤ人弾圧の波が押し寄せる。「ぼく」はドイツ人で、彼ら家族はユダヤ人だった。抗えない現実を目の当たりにする「ぼく」。「ぼく」から見た、フリードリヒの生きた軌跡を描く。
ナチスドイツ政権下の中で生きた一人の少年の物語
『あのころはフリードリヒがいた』を読んだ後に眠りについた私は、夢の中でフリードリヒになっていました。
まだ弾圧が激しくない頃のようでしたが、何かから追われるように、「ぼく」と一緒に逃げ走っていました。
「ここで別れよう」と「ぼく」と別れた私(フリードリヒ)は、近くにあったウィンドゥに映った自分の顔をじっと見つめます。
そこには、決意の表情が表れていました。
自分はユダヤ人だというだけで弾圧された時代。
ヒトラー政権の中で、ドイツにいることが困難な中で、そこに住み、最後までユダヤ人としての誇りをもっていた人たち。
そこで生きる覚悟のようなものを、先ほどの夢の中に出てきたフリードリヒの中に見たのです。
作者は、この本を事実の伝承をもとに、年表を添えて語っています。
「あの頃、あの時代に、フリードリヒという少年がいた」ということを忘れないために。
戦時中の出来事の多くは、「ドイツ人が・・・」「ユダヤ人が・・・」「死者何人」という形で語られ、個人名が出てくることは多くありません。
しかし、そこに生きていた人たちというのは、「フリードリヒ・シュナイダー」という名の彼だったり、「ヘルガ」という名の彼女だったりするのです。
一人一人に物語がありました。
生きている証がありました。
人としての人権を完全に奪われていた時代。
その人たちが生きていた証を、作者は残したかったのでしょう。
フリードリヒが死ぬのを、間近で見なければいけなかった「ぼく」。
ユダヤ人の死を悲しんだドイツ人もたくさんいたはずです。
大切な人の死を悲しまない人がいないのと同じように。