絵本・児童文学研究レポート

絵本・児童文学についての自由研究ブログです

空想のファンタジー『かいじゅうたちのいるところ』

かいじゅうたちのいるところ

 モーリスセンダック さく 神宮輝夫 訳 冨山房 (1975)

 (4~5歳頃から)

 

【あらすじ】

 あるばん、マックスはおおかみのぬいぐるみを着て、いたずらをはじめます。おおあばれをしたので、おかあさんに怒られ、とうとう、ゆうごはん抜きで寝室にほおりこまれてしまいました。すると、木がどんどん生えてきて、寝室は森やのはらに大変身。マックスは船を運んで航海に出ます。1ねんと1にち航海すると、かいじゅうたちのいるところにたどりつきました。マックスは「かいじゅうならしのまほう」を使ってかいじゅうたちの王さまになります。マックスとかいじゅうたちの不思議なお話です。

 

 

「変身願望」「英雄願望」による空想の発達の世界へ

 

4~5歳前後の子どもは、「空想」を発達させていく時期です。

 

乳幼児期は、自分と「おんなじ」「いっしょ」が安心、そして、まねをしてあそぶことが中心でした。

しかし、4~5歳頃になると、見立ててまねていただけのあそびが、変化・変容していきます。

 

そのような空想的イメージの変化がこの時期の子どもたちの興味をかきたてていきます。

 

具体的には「変身願望」や「英雄願望」です。

子どもたちは、変身願望や英雄願望などのイメージ、擬人化された世界であそびます。

 

そして、さらにこのイメージは母子分離の不安を超え、埋める作用を果たすと言われています。

 

この時期の子どもは、幼児期の今までの母子一体感を超えて、明確に自分と母親は「違う」ということがわかってくるようです。

 

そのため、自分と母親との間に心理的なすきまが生じ、このすきまが「母子分離不安」という心理状態をかもし出して、第一次反抗期の一歩を踏み出すのです。

 

このすきまを無意識的に埋めようとすることが、変身願望や英雄願望などの原動力になります。

 

ということで、子どもの心の成長にはこのような心理的なすきまが必要なのです。

 

イメージをはばたかせる。

 

過保護や過干渉すぎると、子どもたちの羽を折ってしまうのかもしれません。

 

 

空想の世界で思い切りあそぶマックス

 

いたずらして大暴れのマックス。

 

お母さんに「この かいじゅう!」と怒られても、

「おまえをたべちゃうぞ!」と口答え。反抗しています。

 

お仕置きで寝室にほうりこまれてしまっても、へいちゃら。

寝室は、森に大変身。

 

空想の世界がどんどんふくらみ、マックスの気持ちとともに、絵の場面もだんだん大きくなっていきます。

自然にそういうしかけになっているなんて・・・すごいです。

 

マックスはかいじゅうたちの王さまなって、無我夢中であそびます。

 

その場面は見開き前面に描かれていて、言葉はありません。

マックスは、かいじゅうたちと思い切り、あそんでいるのです。

 

遊び切ったマックス。

 

すると、さびしくなってやさしいだれかさんのところへ帰りたくなります。

母親を思い出したのでしょう。

 

また、1ねんと1にちこうかいして戻っていきます。

 

空想の世界から戻ってきた寝室には、ちゃんとゆうごはんがおいてあって・・・

 

「まだ ほかほかと あたたかかった。」

 

じわんと余韻が残ります。

 

日常から非日常へ戻ってくる「ファンタジー

 

戻ったときの安心感。

 

これを繰り返しながら、子どもは成長していくのですね。

 

参考文献

『絵本児童文学講座Ⅰ すてきな絵本にであえたら』

工藤左千夫 成文社 (2004)