絵本・児童文学研究レポート

絵本・児童文学についての自由研究ブログです

やさしいまなざし『かもさんおとおり』

『かもさんおとおり』

 ロバート・マックロスキー 文・絵 渡辺茂男 訳 福音館書店 (1965)

  小学校1~2年生頃から

 

【あらすじ】

 かものマラードさんと、マラードおくさんは、巣を作る場所をさがしていました。ボストンの町まで来て、チャールズ川の上をとび、なんとか水辺のしげみの中に気持ちの良い場所をみつけます。かもさん夫婦は川岸にある公園で、マイケルというおまわりさんに会い、仲良くなりました。マラードおくさんは、巣の中にたまごを8つ産みます。たまごから出てきたのは、ジャックに、カック、ラック、マック、ナック、ウァック、パック、そしてクワック。ある日マラードさんは、川の様子を調べるため出かけることになりました。「一しゅうかんたったら こうえんで まってるからな」。その日までマラードおくさんは、こがもたちに、泳ぎ方やもぐりかた、一列に並んで歩くこと、呼ばれたら、すぐ来ること、車のついたものには、危ないから近寄ってはいけないことを教えます。さあ、これで大丈夫。マラードおくさんとこがもたちは、こうえんに向かって歩いていきます。こうえんまでの道のりは大変。無事にたどりつけるのでしょうか。

 

 

物語全体にあふれるやさしいトーン

 

 

セピアのモノトーンで、リトグラフのイラスト。

とてもあたたかみのある質感で、この絵本は描かれています。

 

そして、絵のあたたかさとともに広がる、ボストンの人たちのあたたかいまなざし。

 

道路を横切ろうとした、マラードおくさんとこがもたち。

走ってくる自動車の警笛。

おくさんの「ぐぅあー!」の鳴き声。

それに続いて、こがもたちも「ぐあっ! ぐあっ! ぐぁっ!」

 

騒ぎに気付いたマイケル巡査が駆けつけ、道路の真ん中に立ち、交通整理をして、かもさん親子を通らせてくれました。

 

無事に道路に横切ったことを確認すると、マイケル巡査は交番にとんで帰り、本署のクランシーさんを呼んで、

「かものかぞくが、どうろを あるいていきます!」

「パトカーを たのみます。だいしきゅう!」

 

 

そのころ、マラードさん親子は町を一列に歩いていきます。

 

「はなを つん と うえにむけ、 からだをふりふり、かもあるき。」

おとくいです。

 

親子のかもの行列が、ビーコンのかどにさしかかると、そこには、パトカーが待っていました。

なんと、4人のおまわりさんたちが、マラードさん親子のために、交通止めをしてくれていたのです。

 

おかげで、かもの行列は、無事に公園へたどりつきます。

 

「かもさんたちは、もんのなかから、いっせいに、うしろをむいて、おもわりさんたちにありがとう。

 おまわりさんたちは、にこにこわらって、さようなら、と、てをふりました。」

 

 

約束どおり、再会できた家族。

 

かもたちは、その島が大変気に入って、そこに住むことに決めたそうです。

 

なんだか、ほっとします。

 

あたたかい、まなざしがそこにあります。

 

 

『かもさん おとおり』の誕生秘話 作者 マックロスキーさんのまなざし

 

この絵本の作者、マックロスキーさんは、ボストンのアート学校を卒業した後、何年かしてから、壁画制作の仕事に従事していたそうです。

 

そして、仕事場への行き来で通るパブリック・ガーデンで、楽しそうにあそぶかもの群れを眺めているうちに、実際に、かもの親子の行列が、道路で自動車の流れを止めるのを見て、『かもさん おとおり』のアイディアが生まれたそうです。

 

今まで、この世に住んでいない竜や一角獣、ペガサスなどを描くことが好きだったマックロスキーさん。

 

かもはどうやって描いたらよいのか・・・

悩んだ、マックロスキーさんは、動物園や博物館のおりにしのびこんだり(!)、木の上からながめたり、はく製と一日中にらめっこしたりの日々。

 

挙句の果てに、生きた「まがも」を4羽買い込み、同居生活が始まりました。

それから、こがもを6羽仕入れ、かもずくめ。

 

この絵本の楽しさが生まれたのは、ここからなのでしょう。

 

かもの目線で描かれた、やさしいお話です。

 

参考文献

『心に緑の種をまく 絵本のたのしみ』 渡辺茂男 岩波書店 (2016)