絵本・児童文学研究レポート

絵本・児童文学についての自由研究ブログです

友情の芽生え『おしいれのぼうけん』

『おしいれのぼうけん』

 古田足日 田畑精一 作 (1974) 童心社

 (5~6歳頃から)

 

 

 

【あらすじ】

 さくらほいくえんには、こわいものがふたつ。ひとつはおしいれで、もうひとつは、ねずみばあさん。給食のときや昼寝のときにさわいだりすると、みずのせんせいに「おしいれ」に入れられてしまいます。あるお昼寝の時間、着替えていたあきらのポケットからミニカーがころん。おもわず、あそびはじめてしまうあきらと、それがほしくなってしまうさとし。みんなが寝ているところでけんか勃発。おしいれ行きとなりました。はじめは平気だったけど、だんだん怖くなってくる二人。なんだか、まっくらやみのトンネルのように見えてきた。壁のしみも、人間の顔みたい。と思ったら、ねずみばあさんだ!ふたりで逃げよう!ふたりの冒険が始まります。

 

「おしいれ」と「壁のしみ」 冒険の入り口

子どもは想像力豊か。

 

「おしいれ」や「壁のしみ」は物語のはじまりにぴったりです。

 

「おしいれ」から見る外の世界と中の世界。

なんだか不思議です。

 

「壁のしみ」も、顔に見えたり、動物に見えたりすることがありますが、たまに怖い絵が浮かび上がってくると、頭から離れなくなって・・・

 

いろいろ想像がふくらんできます。

頭の中で、だんんだんだん大きくなって、輪郭もはっきりしてきて。

 

冒険の入り口です。

 

子どもにとって、冒険の入り口はたくさんあります。

 

トンネルの向こう

屋根裏部屋

狭い路地

 

小さい頃、よく秘密基地を作っていたことを思い出しました。

 

「ぼうけん」 「ひみつ」 「きち」

 

子どもたちは大好きです。

 

緊張感の共有 友情の芽生え

 

さとしとあきらは、けんかをして、おしいれに閉じ込められてしまいました。

 

でも、同じ空間にいる同志。

 

いつの間にかけんかも忘れて仲直り。

 

おしいれの上の段と下の段に別々に入れられてしまった二人ですが、

 

「さとちゃん、てを つなごう」

「あーくん、がんばれ」

 

「ふたりは あせで べとべとの てを しっかりにぎりあいました」

 

一人だったらただ泣いていただけかもしれない。

一人だったら、何もできなかったかもしれない。

 

でも、二人なら勇気を出して!

 

二人は、高速道路を超え、下水道を超え、必死にねずみばあさんから逃げていきます。

 

とうとうねずみばあさんの前に連れていかれてしまっても、しっかり手をにぎる二人。

一心同体。

 

最後は、大きくなって出てきた「デゴイチ」と「ミニカー」に乗って、蒸気と煙とライトで、ねずみばあさんとねずみたちを追いやります。

 

「ふと きがつくと、ふたりは おしいれのなかで、デゴイチと ミニカーを もったまま うとうとしていました。でも、あの ぼうけんが うそではない しょうこには、 ふたりとも あせぐっしょりになっていました。」

 

冒険を終えて、元の世界へ戻ってくることができた二人。

 

同じ場を共有し、恐怖や緊張感を共に味わった二人。

そんな場面から、素敵な友情が芽生えていきました。

 

友だちの存在が自分を強くしてくれる。

友だちがいるからがんばれる。

 

子どもたちの世界が、友情によって広がっていきます。