『トムは真夜中の庭で』
フィリッパ・ピアス 作 高杉一郎 訳 岩波書店 (1967)
小学校4~5年生頃から
【あらすじ】
せっかくの夏休みなのに。トムは弟がはしかにかかってしまったために、親戚のおじさん、おばさんのところへ預けられることになった。おじさんとおばさんとはなんとなく合わない。ここは何にもすることがないし、どこにも行けないし、一緒にしゃべったり、遊んだりする相手がいないからひどく退屈だ。早く寝なさいと言われても寝られない。そんな時、大時計の鐘が十三時をうつ。そんなことがあるはずはないと思ったトムは、大時計をこっそり見に行く。すると裏庭にはみたことのない庭園が広がっていた。その夜から、毎晩時計が十三時になると、トムは秘密の庭園に行き、そこでハティという女の子に出会う。トムとハティの時間を超えたファンタジー。
時間を超えた物語『トムは真夜中の庭で』
『トムは真夜中の庭で』の作品は、トムとバーソロミュー婦人の孤独感や時間の構図、庭園の描写などが素晴らしく、大変引き込まれました。
まずは、トムとバーソロミュー婦人の孤独感。
トムは弟がはしかにかかってしまったために親戚のおじさん、おばさんのうちに預けられます。
話が合わないおじさん、おばさんと過ごす中で疎外感が募り、孤独を感じるようになっていきました。
バーソロミュー婦人は、年を取り、やっかいがられている存在です。
また小さい頃、婦人がハティと呼ばれていた時も、いとこの男の子たちには相手にされず、みなしごであるハティを育てているおばさんもハティのことをかわいがっていませんでした。
二人の孤独感が二人を近づけていったのです。
そして、作品の中の時間の構図。
トムは今をずっと生きていますが、ハティは会うたびに大きくなっていきます。
それは、バーソロミュー婦人は追体験の中で生きているからです。
そういった二人の通常の時間である量的・物質的時間と、二人の共感的・質的時間である想像上の時間との偶然の一致の世界が、この作品に深みを与えています。
そして、私は何より、庭の描写がとても美しいと感じました。
トムが何度も訪れたくなるのがわかる素晴らしい庭園。
作者のあとがきからもわかるように、実際にあった庭園のことが描かれているというから、相当思い入れがあったのでしょう。
話の後半、ハティの中でトムがだんだんと薄れていきます。
そして、トムはついに庭園に行けなくりました。
しかし、その後トムはハティと再会することになります。
アパートの3階に住んでいて、今はバーソロミュー婦人となったハティと。
キラキラ輝くおばあさんの黒い目はハティの目でした。
最後の別れの時に、トムとバーソロミュー婦人は親しみを込めて抱き合いました。
その時の二人は、庭園の中で出会った頃のトムとハティだったのでしょう。
時間を超えた二人の素敵なファンタジーです。